ベトナムジッポーには、兵士たちが実際に足を踏み入れた 地名=Place Name が数多く刻まれています。
Da Nang(ダナン)、Pleiku(プレイク)、Saigon(サイゴン)、Quang Tri(クアンチ)…。
その一つひとつは、兵士が生活し、戦い、仲間を失い、そして帰還を願った “実在の戦地” です。
これらの地名は単なる刻印ではなく、「どの Corps(軍管区)で、どんな部隊が、どのような作戦を行っていたか」という軍事史そのものと密接につながっています。
このページでは、南ベトナムをI〜IV Corpsに分け、主要都市・作戦地・代表部隊をわかりやすく整理。
ZIPPOに刻まれた地名が、どの戦区に属し、どんな背景があるのかを一目で理解できるようにまとめました。
シリーズものですので、興味のある方はぜひ他の回もご覧ください。
🪖 Vietnam Zippo Master Guide|全7シリーズ
ベトナム戦争ZIPPOを「部隊章・戦地名・従軍年号・刻まれた言葉・使用感・真贋」という6つの視点から体系的に読み解く、KICガレージによる総合ガイドです。
【ラインナップ】
🔷 ①【総まとめ】ベトナムZIPPOとは?
🔷 ② Unit Patch(部隊章)|部隊マーク・徽章ガイド
🔷 ③ Place Name(戦地名)|I〜IV Corps × 部隊配置ガイド
🔷 ④ Year(従軍年号)|“1年間ローテーション”と年号刻印の意味
🔷 ⑤ Motto / Personal Message(兵士のメッセージ)|刻まれた言葉の背景
🔷 ⑥ Damage / Condition(ダメージ)|本物のエイジングと修理痕の見分け方
🔷 ⑦ Fake vs Real(真偽)|本物と偽物の見分け方ガイド
※各項目はすべて独立記事として詳しく解説しています。
本記事の最後に各ラインナップへのリンクを貼ってあります。
このガイドは、ベトナムZIPPOを6つの視点から読み解くシリーズの第3回目です。
テーマは「Place Name(戦地名)」。I〜IV Corps の軍管区や、部隊がどの地域に展開していたのかを、ZIPPO刻印と照らし合わせながら解説します。
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🪖 ベトナム戦争|作戦地域(I〜IV Corps)とZIPPOに刻まれた“戦地の名前”の意味
Vietnam War Place Names & Zippo Collection|KIC Garage
📘 記事の目的
KIC Garageでは、現物ZIPPOや米軍公式文献、部隊史資料をもとに、ベトナム戦争で活動していた主な部隊(英名・和訳)を、作戦地域(I〜IV Corps)に分類し、作戦地域・豆知識をまとめた完全保存版を作成しました。
ただし、以下の点にご注意ください👇
-
各情報は現物や記録をもとにしていますが、時期・地域・所属が入れ替わるケースもあり、完全な正確性を保証するものではありません。
-
ZIPPOに刻まれた地名や部隊名が、必ずしもその部隊の駐屯地(または作戦地域)と一致するとは限りません。
-
ベトナムでは部隊が頻繁に移動・分割されており、刻印の地名が思い出の地や派遣前の基地である場合もあります。
- また、少し複雑になりますが、ベトナムジッポーの刻印にも度々彫られるCHU LAI(チュライ)などは、地名では無く南ベトナム軍(ARVN)指揮官が海兵隊のために当て字的に作った名称です。ARVNの「Ⅰ~Ⅳ Corps」には属さない地名もいくつかあります。
そのため、部隊名と地域が一致していれば「おお、これは正しい時代のZIPPOだな」と安心できる程度の目安としてお楽しみください。
一致していなくても「偽物」とは限りません。歴史の断片として、刻まれた文字ひとつひとつを読み解いていくのが、このコレクションの醍醐味です。
――それでは、I Corps(北部沿岸)からIV Corps(メコン・デルタ)へ。
部隊章とZIPPO刻印が語る、時代のディテールを辿っていきましょう。
💡 このあと、I Corps〜IV Corps順に主要な43部隊を紹介します。右側に部隊章・ZIPPO刻印の写真を掲載しています。
I Corps〜IV Corpsとは?
🟥 I CORPS(北部沿岸:Quang Tri/Hue/Da Nang/Chu Laiなど)
THIRD MARINE DIVISION(第3海兵師団)
作戦地域: I Corps(北部戦区) — Quang Tri、Dong Ha、Khe Sanh、DMZ周辺
豆知識: 赤地に金の三角形(デルタ形)を配した部隊章で、三角は「戦闘・支援・補給」の三要素を象徴。北ベトナム軍との最前線、いわゆる“DMZ(非武装地帯)戦線”を死守した。
FIRST MARINE DIVISION(第1海兵師団)
作戦地域: I Corps(北部戦区) — Da Nang、Chu Lai、Phu Bai、Tam Ky
豆知識:青地に赤い「1」、そして「GUADALCANAL(ガダルカナル)」の文字が刻まれたこの徽章は、第1海兵師団が第2次大戦中にソロモン諸島のガダルカナルで獲得した栄誉を示すもの。
THIRD MARINE AMPHIBIOUS FORCE(第3海兵水陸両用軍/3rd MAF)
作戦地域:I Corps(北部戦区)全域 — Da Nang(司令部)、Phu Bai、Dong Ha、Quang Tri、Chu Lai
豆知識: I Corps全域を束ねた海兵隊の上位編成。赤地に金のドラゴン、上部にローマ数字「Ⅲ」を配したデザイン。ドラゴンは「アジア(東洋戦線)」を象徴し、力と守護を意味する。
23rd INFANTRY DIVISION(AMERICAL / 第23歩兵師団)
作戦地域: I Corps(北中部) — Chu Lai(司令部)、Quang Ngai、Tam Ky、Da Nang 南方地域
豆知識: この五つ星の盾は、「AMERICAL(American + New Caledonia)」を象徴する部隊章。星は“United States”を、盾は防衛を意味しており、太平洋戦域から続く伝統を受け継ぐ。
SPECIAL FORCES(AIRBORNE / グリーンベレー)
作戦地域:I〜III Corps 全域 — A Shau Valley、Dak To、Kontum、Nha Trang(本部)など
豆知識: “De Oppresso Liber”。ZIPPOの刻印に見られる“短剣に絡む三本の稲妻”の意匠は、特殊部隊の正式徽章に由来し、電撃的な作戦遂行能力と精密な攻撃を象徴する。上部の AIRBORNE タブは空挺降下資格を意味し、彼らが空・陸・山岳あらゆる戦域に迅速展開できることを示す。
196th INFANTRY BRIGADE(第196歩兵旅団)
作戦地域: I〜II Corps(北中部〜中央高地)— Chu Lai、Tam Ky、Quang Ngai、Da Nang 周辺
豆知識: 徽章の“交差する炎(Torch)”は、旅団のモットー「Light the Way(道を照らせ)」を象徴。二つの炎は“知恵と勇気”、または“昼夜を問わぬ作戦行動”を意味するとされる。
90th TACTICAL FIGHTER SQUADRON(第90戦術戦闘飛行隊 / USAF)
作戦地域:I Corps(北部戦域)— Da Nang Air Base(ダナン空軍基地)、Hue沿岸空域
豆知識: 部隊ニックネーム “Pair o’ Dice(ペア・オブ・ダイス)” は、ギャンブルのような危険な空戦をユーモラスに象徴しており、部隊章にはこのZIPPO刻印と同じ 2つのサイコロ が描かれている。
MEDICAL TRAINING CENTER(医療訓練センター)
作戦地域:主に I Corps(Quang Tri、Hue 周辺)および一部 III Corps(Long Binh)
豆知識: 刻印デザインの 星(Star) は「米軍医療部(U.S. Army Medical Department)」の象徴、その周囲の 五弁の輪郭(Flower-like border) は「命の保護」「回復」を意味するシンボルとされる。
101st AIRBORNE DIVISION(第101空挺師団)
作戦地域:主に I Corps および II Corps(中部〜中部高原地帯)— Phu Bai、Hue、Camp Eagle、Quang Tri など。
豆知識:「Screaming Eagles(スクリーミング・イーグルス)」の愛称で知られる第101空挺師団は、1967年からベトナムに展開。途中で「Airmobile(空中機動)」へと改編され、ヘリコプターを駆使した空中強襲作戦で知られる。テト攻勢(1968年)やフエ市街戦、アシャウ渓谷(A Shau Valley)での激戦などに参加。徽章の鷲はアメリカの象徴であり、空からの迅速な打撃力を表している。
K-RICSTA(韓国軍支援司令部/連絡部隊)
作戦地域:I Corps(中北部戦域、特にDa Nang〜Quang Ngai周辺)
豆知識: このZIPPOに刻まれた 頭蓋骨にベレー帽をかぶったマーク は、
K-RICSTA特有の意匠で、「死線を越えて任務を果たす決意」 を表すといわれる。背後の炎形(スパイク状の輪郭)は、通信・作戦・情報任務を象徴する「危険と緊張のエネルギー」を表現。
🟩 II CORPS(中部高原:Pleiku/Kontum/An Khe/Nha Trang/Quy Nhonなど)
FOURTH INFANTRY DIVISION(第4歩兵師団)
作戦地域: II Corps(中部高原 / Central Highlands)— Pleiku、Dak To、Kontum
豆知識: この師団章は、“IVY”=ローマ数字の「IV(4)」 と “常緑の結束” をかけたデザイン。中央のクロス形は「4方向への作戦展開」を象徴し、堅牢な防御と機動力を示している。
1st CAVALRY DIVISION(第1騎兵師団 / Airmobile)
作戦地域: 主に II Corps(An Khe、Pleiku、Phuoc Vinh)のちに I Corps北部にも一部展開。
豆知識: 第1騎兵師団は、世界初の“エアモビリティ(Airmobile)”=ヘリ機動戦を実戦導入した部隊。1950年代までは本来“騎兵”=馬の部隊だったが、ベトナム戦争ではヘリコプターによる高速展開・包囲戦術で知られるようになった。
U.S. NAVY SEALs / UDT(アメリカ海軍特殊部隊
/ Underwater Demolition Team)
作戦地域: 主に II Corps および III Corps(中南部・メコンデルタ地帯)— Nha Be、My Tho、Can Tho、Vung Tau など。
豆知識: SEAL(Sea, Air, and Land)および UDT(Underwater Demolition Team:水中破壊チーム)は、アメリカ海軍の精鋭特殊部隊であり、ベトナム戦争では河川・沿岸・デルタ地帯での偵察、破壊工作、奇襲作戦を実施。特にメコンデルタではベトコン補給路の遮断や要人捕獲作戦に従事した。徽章のパラシュートとアンカーを組み合わせたデザインは、水陸空すべての環境で活動できる能力を象徴しており、「SEAL/UDT」と刻まれていることから、両部隊の過渡期(1960年代中期)に使用されたデザイン と考えられる。
7th CAVALRY REGIMENT(第7騎兵連隊)
作戦地域:II Corps → 後半は III Corps(An Khe、Pleiku、Phuoc Vinh 周辺)
豆知識: 第7騎兵連隊は、アメリカ陸軍の中でも最も有名な部隊のひとつ。
創設は1866年で、あの ジョージ・A・カスター将軍 が初代司令官。「GARRY OWEN」は第7騎兵の伝統・誇りを示す語句。
173rd AIRBORNE BRIGADE(第173空挺旅団)
作戦地域: 主に II Corps(中央高地) — 特に Bien Hoa(ビエンホア), Dak To(ダクトー), Kontum(コンツム) 周辺。
豆知識: 第173空挺旅団は、アメリカ陸軍初の常設空挺旅団 であり、
ベトナム戦争では 最初に投入された地上戦部隊 として知られています(1965年上陸)。部隊章に描かれた「天を翔る剣と翼」は、“Sky Soldiers(空の兵士)” の愛称を象徴。“Airborne” のタブ(肩章上部)は、空挺資格を有することを示しています。
5th SPECIAL FORCES GROUP(第5特殊部隊群 / 5th SFG)
作戦地域:II Corps(中央高地)を中心に展開。
豆知識: ベトナム特殊部隊の中核として最も知られる部隊。 モットー「De Oppresso Liber(圧制者からの解放)」は世界的にも有名で、ZIPPO彫刻では短剣と2本の矢が交差した徽章が定番。
48th ASSAULT HELICOPTER COMPANY(第48強襲ヘリ中隊)
作戦地域: 主に II Corps(中部高原地帯)— Nha Trang、Tan Canh、Kontum、Pleiku など。
豆知識: 「Blue Stars(ブルースターズ)」の愛称で知られ、兵員輸送・近接航空支援・負傷兵搬送を担当した。スローガン「Skill Not Luck(腕で勝つ、運ではない)」は、精密な操縦技術に誇りを持つ隊の精神を示している。UH-1 “Huey” ヘリでII Corpsの険しい山岳地帯を縦横に飛び、連合地上部隊を支援した。
1st FIELD FORCE(第1野戦軍)
作戦地域:II Corps(中部高原地帯)全域 — Nha Trang(司令部)、Pleiku、Kontum、Ban Me Thuot
豆知識: 背景の赤・青の斜帯は陸軍と空軍の協調を表し、金色の縁取りは指揮権と権威を意味する。1965年に設立され、II Corps地域の作戦を総括。第4歩兵師団、173空挺旅団、特殊部隊群などを指揮下に置いた。
🟧 III CORPS(南部内陸〜サイゴン:Saigon/Bien Hoa/Long Binh/Cu Chi/Tay Ninhなど)
FIRST INFANTRY DIVISION(第1歩兵師団 / Big Red One)
作戦地域: 主に III Corps(中南部・サイゴン周辺)— Lai Khe、Di An、Quan Loi など。
豆知識: 巨大な“1”の徽章。「ビッグ・レッド・ワン」は、アメリカ陸軍で最も古い現役師団のひとつ。第一次・第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争と連続して参戦しており、まさに “アメリカ陸軍の顔” 的存在です。
25th INFANTRY DIVISION(第25歩兵師団 / Tropic Lightning)
作戦地域: 主に III Corps(中南部・サイゴン西北部)— Cu Chi、Tay Ninh、Hau Nghia など。
豆知識: 赤いタロイモの葉に黄色の稲妻を描いた徽章が特徴で、ハワイ出身部隊を象徴している。「Tropic Lightning(熱帯の稲妻)」は師団の迅速な機動力を表す愛称。兵士の間ではユーモラスに「Electric Strawberry(電気いちご)」とも呼ばれた。ベトナム戦後もハワイのスコフィールド兵営を拠点に活動を続けている。
199th INFANTRY BRIGADE(第199歩兵旅団 / Red Catchers)
作戦地域:主に III Corps(中南部・サイゴン周辺)— Long Binh、Bien Hoa、Saigon 東方地域など。
豆知識: 「Red Catchers(レッド・キャッチャーズ)」の愛称で知られ、主にサイゴン防衛や周辺掃討作戦を担当。旅団章の赤い松明と矢は、警戒と迅速な攻撃を象徴している。第25歩兵師団などと連携し、テト攻勢(1968年)ではサイゴン市街戦にも参加した精鋭部隊。
82nd AIRBORNE DIVISION(第82空挺師団 / All American)
作戦地域:主に III Corps および I Corps(中南部~中部沿岸部)— Saigon、Phu Bai、Hue など。
豆知識: 「All American(オール・アメリカン)」の名は、創設時に全米50州から志願兵が集まったことに由来し、“AA”の徽章にも表現されている。テト攻勢(1968年)時にアメリカ本土から急派され、サイゴン防衛や中部戦線の増援として活躍した精鋭空挺師団。
11th FIELD FORCE(第11野戦軍)
作戦地域: 主に III Corps(中南部・サイゴン周辺)— Long Binh、Bien Hoa、Tay Ninh など。
豆知識: III Corps地域のアメリカ地上部隊を統括する上級司令部として1966年に編成。第1歩兵師団、第25歩兵師団、第199歩兵旅団などを指揮下に置き、サイゴン防衛や国境地帯での大規模作戦を統制した。徽章の上向きの剣は攻撃精神と指揮権を象徴している。
18th MILITARY POLICE BRIGADE(第18憲兵旅団)
作戦地域:主に III Corps(中南部・サイゴン周辺)— Long Binh、Saigon、Bien Hoa など。
豆知識: ベトナム戦争中の全米軍憲兵部隊を統括し、交通管制・治安維持・捕虜管理など幅広い任務を担当。テト攻勢(1968年)ではサイゴン市内の治安回復で重要な役割を果たした。徽章の剣は法の権威を、左右の斧は秩序と正義を象徴している。
11th ARMORED CAVALRY REGIMENT (第11機甲騎兵連隊
/ Blackhorse Regiment)
作戦地域: 主に III Corps(中南部・サイゴン西方)— Xuan Loc、Cu Chi、Tay Ninh、Lai Khe など。
豆知識: 「Blackhorse(黒馬)」の愛称で知られる第11機甲騎兵連隊は、ベトナム戦争中、III Corps 戦域の機動打撃部隊として活躍。機甲車両(M48戦車、M113装甲兵員輸送車など)を運用し、国境地帯やサイゴン周辺での掃討・防衛任務を担当した。特に1969年のカンボジア作戦(Operation Toan Thang)では、第1騎兵師団とともに国境越境作戦を展開。徽章の黒馬は、機甲部隊の力強さと迅速な機動力を象徴している。
1st LOGISTICAL COMMAND(第1兵站司令部)
作戦地域:主に III Corps(中南部・サイゴン周辺)— Long Binh、Saigon、Bien Hoa、Cam Ranh Bay など。
豆知識: 南ベトナム全域のアメリカ軍補給・輸送・整備を統括する後方支援組織として1965年に設立。燃料・弾薬・医療・車両整備など広範な任務を担い、兵站の中枢として機能した。徽章の円と矢印は、全方向への支援と継続的な補給体制を象徴している。
44th MEDICAL BRIGADE(第44医療旅団)
作戦地域: 主に III Corps(中南部・サイゴン周辺)— Long Binh、Saigon、Bien Hoa など。
豆知識: 南ベトナム全域のアメリカ陸軍医療支援を統括し、病院運営、救急搬送、衛生管理などを担当。テト攻勢時には負傷兵治療や医療物資供給で重要な役割を果たした。徽章中央の金色の星は「希望と生命の光」を象徴し、黒と白の配色は生と死の狭間で任務にあたる医療兵の献身を表している。
MACV(U.S. MILITARY ASSISTANCE COMMAND, VIETNAM / 米軍司令部)
作戦地域: Saigon全域(司令・統括)および I〜IV Corps 各戦術地域を統括。
豆知識:1962年に設立され、南ベトナムにおける全米軍部隊の作戦指揮を一元化した最高司令部。陸・海・空・海兵隊の統合作戦を指導し、米軍顧問団の運用やARVN(南ベトナム陸軍)支援も担当した。徽章の中央の剣は軍事力と決意を、背景の要塞形状は防衛と統制を象徴している。
USARV(U.S. ARMY VIETNAM / 在ベトナム米陸軍)
作戦地域: Saigon(行政・補給統括)およびI〜IV Corps の全陸軍部隊を統括。
豆知識:1965年に設立され、南ベトナムに展開する全陸軍部隊の行政・補給・後方支援を担当した。戦闘指揮を行うMACV(米軍司令部)を補完する存在であり、兵站・人事・医療・通信などの分野を統合管理。徽章の中央の剣は軍の力を、三色の縦帯は陸軍・空軍・海軍の統合を象徴している。
STRATCOM(U.S. STRATEGIC COMMUNICATIONS COMMAND / 戦略通信司令部)
作戦地域:サイゴン(ロンビン基地)を拠点に、I〜IV Corps 各地域へ通信網を展開。 Saigon、Long Binh、Nha Trang
豆知識:米軍の通信・情報ネットワークを統括する組織で、ベトナム戦争中は「USSTRATCOM-Vietnam」として活動。部隊間・司令部間の無線・衛星・有線通信を維持し、MACVやUSARVの作戦指揮を支えた。徽章の地球は世界的通信網を、斜めの稲妻は電波・通信技術のスピードと力を象徴している。
18th ENGINEER BRIGADE(第18工兵旅団)
作戦地域:主に III Corps(中南部・サイゴン周辺)— Long Binh、Bien Hoa、Cam Ranh Bay など。
豆知識: 南ベトナム全域で道路・橋梁・滑走路・基地建設を担当した大規模工兵部隊。司令部をロンビンに置き、戦場インフラ整備と補給線維持を担った。徽章の剣は防衛力を、歯車枠は工兵の技術力と継続的支援を象徴している。
1st ARMORED DIVISION(第1機甲師団 / Old Ironsides)
作戦地域:主に III Corps(中南部・サイゴン周辺)— Long Binh、Tay Ninh、Bien Hoa など。
豆知識: 「Old Ironsides(オールド・アイアンサイズ)」の名で知られる第1機甲師団は、米陸軍初の機甲師団として1940年に編成。ベトナムでは1967〜1971年の間、一部部隊(特に第1旅団)が派遣され、歩兵・装甲部隊の支援および防衛任務に従事した。徽章の稲妻は電撃的攻撃力、戦車履帯は機動力、砲弾は火力を象徴している。
🟦 IV CORPS(南部メコンデルタ:Can Tho/My Tho/Ca Mauなど)
NINTH INFANTRY DIVISION(第9歩兵師団)
作戦地域:主に IV Corps(南ベトナム・メコンデルタ地帯)— Dong Tam、My Tho、Can Tho、Sa Decなど。
豆知識: 「Old Reliables(オールド・リライアブルズ)」の愛称で知られ、ベトナム南部の湿地と河川地帯で機動戦を展開。小型ボートと歩兵を組み合わせた「モバイル・リバー作戦(Mobile Riverine Force)」を実施し、デルタ地帯の制圧に貢献した。徽章の八つの花弁は戦場での多方面行動を、赤・青・緑の配色は陸・海・空の統合を象徴している。
ARVN SPECIAL FORCES(南ベトナム軍特殊部隊)
作戦地域:主に II Corps および III Corps(中部高原〜中南部)— Kontum、Pleiku、Ban Me Thuot、Saigon など。
豆知識: “米軍グリーンベレーと共同で偵察・ゲリラ対策・破壊工作を担当した精鋭部隊。モンタニャール(山岳民族)を組織した不正規部隊(CIDG)を指揮し、ベトナム戦争初期の対ゲリラ作戦を支えた。徽章の落下傘と飛翔する豹は、迅速な空挺展開と攻撃的精神を象徴している。
📡 全域(I〜IV 横断の支援・専門部隊など)
1st SIGNAL BRIGADE(第1通信旅団)
作戦地域: 南ベトナム全域 — 主に III Corps(中南部・サイゴン周辺)— Long Binh、Saigon、Bien Hoa など。
豆知識: ベトナム全域の通信ネットワークを統括する専門部隊として1966年に編成。MACVやUSARVなどの司令部を結ぶ通信・暗号・情報伝達を担当し、戦場の指揮統制を支えた。徽章の稲妻は通信とスピードを、剣は防衛と精確な任務遂行を象徴している。
1st AVIATION BRIGADE(第1航空旅団)
作戦地域:南ベトナム全域 — 主に II Corps(中部高原地帯)— Pleiku、Nha Trang、Kontum など。
豆知識:ベトナム戦争中最大規模の航空部隊で、1966年に編成。ヘリコプターと固定翼機を統合運用し、兵員輸送・火力支援・負傷者搬送・偵察など多様な任務を担当した。徽章の翼を持つ剣と鳥は、空からの迅速な攻撃力と機動性を象徴しており、「He who flies wins(飛ぶ者、勝つ)」の精神を体現している。
MILITARY POLICE(憲兵 / MP)
作戦地域: 南ベトナム全域 — 主に III Corps(中南部・サイゴン周辺)— Saigon、Long Binh、Bien Hoa など。
豆知識: “MP”文字・交差拳銃の刻印が典型。戦闘地域における軍内部の治安維持、交通管制、捕虜の管理、重要施設の警備などを担当。テト攻勢時にはサイゴン市街での治安回復に大きく貢献した。交差した二挺のピストルは伝統的なMPのシンボルであり、法と秩序を武力で守る決意を象徴している。
MILITARY INTELLIGENCE(軍事情報部)
作戦地域:南ベトナム全域 — 主に III Corps(中南部・サイゴン周辺)— Saigon、Long Binh、Bien Hoa など。
豆知識:敵部隊の動向・通信傍受・心理戦(PSYOP)・尋問などを通じて戦略情報を収集・分析する専門組織。ベトナム戦争では、MACVやCIAとも協力し、北ベトナム軍やベトコンの活動把握に重要な役割を果たした。徽章中央のバラと矢は「真実を見抜く知性と迅速な対応力」を象徴している。
ARVN RANGERS(南ベトナム軍レンジャー)
作戦地域:南ベトナム全域 — 主に I CorpsおよびII Corps(中部沿岸・高原地帯)— Hue、Da Nang、Kontum、Pleiku など。
豆知識: 虎紋パッチが象徴。ゲリラ戦・山岳戦・機動戦に特化した精鋭歩兵部隊。ベトナム全域に展開し、米軍やARVN主力部隊を支援していた。徽章の虎の顔は勇猛果敢さを、背後の星は国家防衛を象徴。過酷な地形や状況下での独立作戦能力の高さから「ジャングルの戦士」として恐れられた。
10th AIR FORCE(第10空軍 / USAF)
作戦地域:東南アジア全域 — 主にタイ王国(Udorn、Ubon、Nakhon Phanom、Don Muang など)を拠点に、ベトナム・ラオス・カンボジア上空で作戦展開。
豆知識: 第二次世界大戦時のインド・ビルマ戦線での活躍で知られる歴史ある部隊。ベトナム戦争期にはアメリカ空軍の極東作戦を支援し、主に航空輸送・偵察・救難・医療支援任務を担当した。徽章の星と翼は米空軍の象徴であり、中央の“10”はその部隊番号を示す。全域にわたる航空作戦の統制と支援を担い、戦域の空輸・通信・医療体制を支えた。
4457th USAF HOSPITAL(第4457米空軍病院)
作戦地域:主に タイ王国(Udorn Royal Thai Air Force Base)— 東南アジア全域の米空軍部隊を支援。
豆知識: ベトナム戦争中にタイ・ウドーン基地で活動した米空軍の医療施設部隊。戦闘地域から搬送された負傷兵の治療、航空衛生輸送(Air Evacuation)、および医療補給支援を担当した。徽章の翼付きの杖(ケーリュケイオン)は医療と空軍の結合を象徴し、周囲の星はその広範な支援範囲を表している。
AIR ASSAULT(空中突撃コンセプト)
作戦地域:南ベトナム全域 — 特に II Corps および III Corps(中部高原〜サイゴン周辺)— Pleiku、An Khe、Cu Chi など。
豆知識: ヘリコプターを用いて歩兵部隊を迅速に戦場へ投入する作戦コンセプトで、ベトナム戦争で初めて本格的に確立された戦術。第1騎兵師団(Airmobile)や第101空挺師団などが主導し、機動力と火力を兼ね備えた新しい戦闘様式を実現した。徽章の翼とライフルは空陸両面の作戦能力を、稲妻は迅速な攻撃力と通信連携を象徴している。
193rd INFANTRY BRIGADE(第193歩兵旅団)
作戦地域: パナマ運河地帯(Canal Zone)— Fort Clayton、Fort Kobbe など。ベトナムの I〜IV Corps には属さず、U.S. Army South(南方軍)指揮下。
豆知識: 1951年にパナマ運河防衛のために編成された常駐部隊。ベトナム戦争中は直接派遣されなかったが、南方戦域への兵員・装備支援や訓練を担当した。徽章中央の剣は防衛の意思を、縦のラインはパナマ運河の閘門(こうもん)を象徴し、アメリカ大陸と太平洋・大西洋を結ぶ戦略的重要拠点を守る使命を示している。
※I〜IV Corpsとは?
- I〜IV Corpsとは、ベトナム戦争当時の南ベトナム軍(Army of the Republic of Vietnam(ARVN))の軍事行政区分(戦区)です。
- アメリカ軍・南ベトナム軍は作戦地域を4つの軍管区(Corps Tactical Zone)に分けて戦っていました。
- ZIPPOの刻印にある「Da Nang」「Cam Ranh」「Cu Chi」などの地名の多くは、この4つのCorpsのどこかに属します。
- 各地域は番号で呼ばれ、I Corps が北、IV Corps が南という順に並びます。
- 地図では「Ⅰ CTZ / Ⅱ CTZ / Ⅲ CTZ / Ⅳ CTZ」と表記されます。
- ※少し複雑になりますが、ベトナムジッポーの刻印にも度々彫られるCHU LAI(チュライ)や QUI NHON(クイニョン)は、厳密にはARVNの「Ⅰ~Ⅳ Corps」には属しません。当時は基地名として通用していました。
従って、ZIPPOに刻まれた地名が地図上に無いとしてもイコール偽物という訳ではありません。
🪖 CORPS(軍団)の正式名称と日本語
| 略称 |
正式名称(英語) |
日本語訳 |
備考 |
| I Corps |
First Corps Tactical Zone |
第Ⅰ軍団戦術地域(第1軍管区) |
北部(DMZ~ダナン周辺)を担当。中部沿岸を含む。 |
| II Corps |
Second Corps Tactical Zone |
第Ⅱ軍団戦術地域(第2軍管区) |
中部高原地帯(Kontum、Pleikuなど)を担当。 |
| III Corps |
Third Corps Tactical Zone |
第Ⅲ軍団戦術地域(第3軍管区) |
サイゴン周辺および南部中央平原を管轄。 |
| IV Corps |
Fourth Corps Tactical Zone |
第Ⅳ軍団戦術地域(第4軍管区) |
メコンデルタ地帯を管轄。 |

出典:U.S. Central Intelligence Agency(CIA) “South Vietnam 1966–1967 – Corps Tactical Zones Map”, Public Domain
■ I Corps (First Corps Tactical Zone) — 米海兵隊の牙城
日本語:第Ⅰ軍団戦術地域(第1軍管区)
範囲:Northern region (from the Demilitarized Zone to Da Nang area).
主要都市:Hue, Da Nang, Quang Tri, Thua Thien など。
激戦地「Khe Sanh」「Hue」がこの地域に含まれます。
■ II Corps (Second Corps Tactical Zone) — 特殊部隊・空挺・レンジャー
日本語:第Ⅱ軍団戦術地域(第2軍管区)
範囲:Central Highlands(中部高原地帯)。
主要都市:Pleiku, Kontum, Ban Me Thuot (Buon Ma Thuot), Quang Duc など。
ZIPPOでは「CONTUM」「PLEIKU」「DAK TO」が頻出します。
■ III Corps (Third Corps Tactical Zone)
日本語:第Ⅲ軍団戦術地域(第3軍管区)
範囲:Saigon(now Ho Chi Minh City)周辺~南部中部平原。
主要都市:Bien Hoa, Tay Ninh, Binh Duong, Long An, Vung Tau など。
ZIPPOの彫刻でも最も種類が多い地域です。
■ IV Corps (Fourth Corps Tactical Zone)
日本語:第Ⅳ軍団戦術地域(第4軍管区)
範囲:Mekong Delta region (メコン・デルタ地帯)。
主要都市:Can Tho, Vinh Long, My Tho, Chau Doc, Ca Mau など。
ZIPPOでは「My Tho」「Can Tho」「Vinh Long」などが登場します。
📡 まとめ
戦地に刻まれた地名は、ただの文字でも装飾でもなく、そこに立った兵士たちの“生きた記憶”そのものです。
クアンチ、ダナン、プレイク、サイゴン――それぞれの名の裏には、汗や泥、恐怖や希望、そして仲間との時間がありました。
ZIPPOに刻まれた地名を辿るということは、単に歴史を調べることではなく、「その場所で、何があり、誰がそこにいたのか」という、兵士たちの視点でベトナムという地図を読み直す行為でもあります。
半世紀を超えた今でも、小さな金属の中に閉じ込められた記憶は消えることなく、むしろ時を経てさらに濃度を帯びています。
これからも、刻印のひとつひとつに宿る物語を丁寧に拾い上げ、失われかけた戦場の風景と兵士たちの声を、そっと未来へつなげていきたいと思います。
🪖 Vietnam Zippo Master Guide|関連記事リンク集(全7シリーズ)
ベトナム戦争ZIPPOを深く理解するための、KICガレージによる専門ガイドシリーズです。
気になるテーマから読み進めてください。
戦場で刻まれた「部隊章・戦地名・年号・メッセージ」の意味を総合解説するガイド。
実物ZIPPOに彫られた部隊マーク・徽章の一覧と、部隊ごとの豆知識。
🔷 ③ Place Name(戦地名)|I〜IV Corps × 部隊配置ガイド
ZIPPOに刻まれた戦地名の意味と、地域別の主な米軍部隊の配置を解説。
’67–’68 などの従軍年号が持つ意味と、兵士の1年間(Tour of Duty)を読み解く。
実際の英語メッセージの実例と、兵士の心理・背景を解説。
戦場で生きたZIPPOが持つリアルなエイジング(使用痕・経年変化)を徹底解説。
底刻印・彫りのタッチ・経年変化・内容の整合性から偽物を見抜くポイント。
ヴィンテージジッポをお探しの際はKIC GARAGEへ
ベトナムジッポーは、アメリカ兵がベトナム戦争下で手彫りしたアートピースで、ミリタリーだけでなくヌードや風刺、反戦など多彩な表現が見られます。一点ものとしての希少性からコレクターに人気で、真贋の見極めが重要です。
KIC GARAGEはジッポ、ランタン、イヤープレートを扱うヴィンテージショップです。
ヴィンテージと出会う喜びを共有したいという思いから開業し、未使用品を除き、すべて実際に使用テストと必要な修理を行ったうえで販売しています。
ストーリーあるヴィンテージとともに特別な体験をお届けします。ベトナムジッポをはじめ、KIC GARAGEのコレクションをぜひご覧ください。
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