戦場の兵士たちが愛用したアイテムとして、Zippo(ジッポー)ライターほど個人的な想いが刻まれた道具は他にないかもしれません。
特に、ベトナム戦争(1955-1975)時代のZippoライターには、兵士たち自身が刻んだ言葉が数多く残されており、それらは彼らの精神状態、ユーモア、皮肉、信仰、そして切実な願いを如実に物語っています。
今回は、そんな「ベトナムジッポー」に刻まれたメッセージに込められた意味をひもといてみます。
■ なぜZippoにメッセージを刻んだのか?
Zippoはアメリカ兵にとって、戦地での必需品であり、自己表現のキャンバスでもありました。
耐久性に優れ、風に強いライターとして評価されていたZippoは、戦場でも日常的に使用されていたため、常に身につけるアイテムとして個人の刻印を加える文化が自然と広まりました。
また、兵士たちは刻まれた文字によって、
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自分の信念を表明し、
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故郷や愛する人への想いを刻み、
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戦場の苛酷さをジョークに昇華し、
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戦友や敵に向けた挑発を残しました。
■ 実際に刻まれたメッセージの例とその意味
1. 「WHEN I DIE, I'LL GO TO HEAVEN BECAUSE I'VE SPENT MY TIME IN HELL」
「俺が死んだら天国に行ける。地獄はもう体験したからな」
▶ 戦場での過酷な体験を皮肉に込めた代表的な文句。実際、多くのジッポーにこのフレーズが見られます。
2. 「YEA, THOUGH I WALK THROUGH THE VALLEY OF THE SHADOW OF DEATH, I FEAR NO EVIL, FOR I'M THE EVILEST SON-OF-A-BITCH IN THE VALLEY」
「死の谷を歩こうとも、俺は恐れない。なぜなら俺がこの谷で一番イカれた野郎だからだ」
▶ 聖書の一節を下敷きに、兵士独自のブラックユーモアを加えた言葉。生死の狭間にある者の強がりと覚悟がにじむ一文。
3. 「IF YOU’RE NOT WITH THE ONE YOU LOVE, LOVE THE ONE YOU’RE WITH」
こちらは1960年代に流行したスティーヴン・スティルスの楽曲の一節でもあり、意味は「愛する人と一緒にいられないなら、今そばにいる人を愛しなさい」
▶ 家族や恋人と離れた兵士たちが、現地での孤独や現実を肯定するための「割り切り」として使った言葉。
4. 「OH! LORD, DON’T LET ATOMIC BOMB DROP ON ME!」
「ああ主よ、原子爆弾を私の上に落とさないでください!」
▶ 皮肉と恐怖が交錯するメッセージ。戦地での不安や不条理をユーモラスに表現しています。
5. 「BEING IN THE ARMY IS LIKE USING A RUBBER. IT GIVES YOU A FEELING OF SECURITY WHILE YOU'RE GETTING FUCKED」
「軍隊にいるってのはゴム付きでヤラれるようなもんだ。安心してるフリして、結局ヤラれてるってことさ」
▶ こちらも強烈な風刺表現で、軍隊の制度的な理不尽さや虚偽の安全感への怒りや嘲笑が表現されています。
「軍にいると安全そうに見えて、実は搾取されているだけ」という現場兵士のリアルな視点です。
■ 個人の名と地名:ジッポーは「戦地の記録帳」
多くのZippoには、兵士の名前(BILLなど)や、配属地(PHU CAT, CAM RANH BAYなど)、勤務年(67-68、71-72など)が刻まれています。
これらは単なる記念ではなく、兵士たちの「個人の記録」であり、「命の刻印」でもあります。
戦死した場合には遺品として遺族のもとに戻るため、ジッポーはミリタリーIDに近い存在でもありました。
■ ジッポーから見える「兵士の素顔」
ベトナムジッポーは単なる金属製ライターではなく、兵士たちの生き様や感情が詰まった「証言」です。
怒り、不安、愛、孤独、皮肉、そして祈り。硬い金属に打ち込まれた言葉は、活字より雄弁に戦争のリアルを語ります。
■ 終わりに:戦争を知る「もうひとつの資料」
Zippoに刻まれたメッセージは、歴史の教科書には載らない、兵士たちの「本音の記録」です。
戦場の過酷さを生き抜いた証、あるいは生き抜けなかった人の遺した声。
ベトナムジッポーを通して見えてくるのは、戦争の表と裏、そして人間の本質そのものかもしれません。